この記事はこんな人におすすめ
- 量子コンピュータに興味がある人
- 簡単な入門書を探している人
最近、話題にのぼることが多い量子コンピュータ。
でも、いったい量子コンピュータって何なんでしょうか?
「量子コンピュータってそもそも何なの?」
「今までのコンピュータとどう違うの?」
「何ができるようになるの?」
いろんな疑問が知りたくて関連本を読み漁ってみました。
物理や数学が超苦手だった文系人間なので、できるだけ数式の使われていない本ばかり読みました。
ド文系でも楽しめる量子コンピュータの入門本を紹介します。
(番外編で関連映画の紹介もあります。)
まずはじめに読んでみるべきおすすめ入門書3冊
量子コンピュータとは何か(ハヤカワ文庫NF)
まず一番におすすめしたい本は『量子コンピュータとは何か』です。
著者はジョージ・ジョンソンさん、ニューヨークタイムズ社の科学記者、サイエンスライターだそうです。
大衆向けの科学本を多く書いているそうで、この本もとても親しみやすい文章で書かれています。
量子コンピューターの仕組みを難解な数式を使わず、できるだけ簡単にわかりやすく伝えようと書かれた本です。
量子コンピュータの基本がわかる
原書が発行されたのは2003年なのでちょっと古めの本です。
じゃあ、書かれている情報も古くて参考にならないのかと言うと、そんなことはありません。
(・・・インテルのCPUがペンティアム4、とかいう懐かしさを感じさせる記述もありますが)
この本で述べられているのは、量子コンピュータにかかわる基本的なことばかりです。
基礎となる知識がしっかりと説明されています。
例えば、コンピュータの基本原理や量子論の基本概念、そして量子コンピュータは量子のどんな性質を利用しているのか・・・
さらに、量子アルゴリズムというものについても詳しく書かれています。
量子アルゴリズムというのは、問題を解くための計算の手順のようなもので、量子コンピュータをすごい計算装置にするために絶対必要なものなんです。
(残念ながら、この本で紹介されている量子アルゴリズムの仕組みについてはワタシには良くわかりませんでしたが・・・。)
主な量子アルゴリズム
ショアのアルゴリズム:素因数分解を超高速に行う事ができる。これが実用レベルになると現在の暗号技術は崩壊する。
グローバーのアルゴリズム:整理されていない情報を超高速に検索することができる。
『量子コンピュータとは何か』は、量子コンピュータでどのようなことが解決できるのか、そして解決できない限界もあるということまで教えてくれます。
もちろん、この本が書かれた当時には無かった最近の話題、D-WAVEシステムズ社の量子コンピュータ(googleとNASAが導入・運用したマシン)についての記述はありません。
でも、量子コンピュータとは何かという入門部分はしっかりとおさえることができます。
「分かってもらいたい」という著者の熱意を感じる
この本からは「分かってもらいたい!」という熱意がひしひしと伝わってきます。
そんな熱意にこたえるため、ワタシも一生懸命読みました(2回+さらに部分的に再読)。
残念ながら理解力不足でよく分からないところも多々あります。
でもそんな分かりづらい箇所は読み飛ばしましょう。
理解できるところだけ読んでも、とても面白い内容です。
量子コンピュータに興味を持った人が一番はじめに読む一般向けの入門書としては最適な本ですよ。
量子コンピューターが本当にすごい(PHP新書)
2番目におすすめなのは『量子コンピューターが本当にすごい』です。
著者はサイエンスライターの竹内薫さん。
ベストセラーにもなった『99・9%は仮説』を書かれた人でもあります。東京大学理学部物理学科卒業です。
内容的には『量子コンピュータとは何か』より少しだけ数学的な記述が多いかなという感じです。
でも文章にヘビーさや堅苦しさは全くありません。
思いっきり柔らかい文章で、スイスイ読み進めることが出来ます。
コンピュータと量子論にかかわる科学者列伝
この本の特徴的な部分は、コンピュータや量子論の発展に関わった人たちのお話がたくさん出てくるところでしょう。
量子コンピュータそのものに関する記述だけではなく、科学者たちの逸話がとても楽しめます。
特に、コンピュータの概念を作った人々が超人的な才能の持ち主ばかりで驚きます。
バベッジ、エイダ、ノイマン、チューリングといった、とてつもない天才ばかりです。
登場する天才たち
バベッジ:産業革命の頃のイギリスの人。ケンブリッジ大学のとっても偉い教授。歯車仕掛けの解析機関を考案した(これは、例えるなら蒸気機関で動作するスーパーコンピューター)。
エイダ:バベッジと同じ19世紀の人物。天才というよりは詩的直観力に優れた女性。詩人バイロンの娘、人類初のプログラマー。
ノイマン:悪魔的な頭脳の持ち主。当時のコンピュータより計算が早かったらしい。原爆開発にも携わった。
チューリング:解読不可能と言われたドイツ軍の暗号マシン「エニグマ」を解読。解読のために設計・制作した解析機械は現代のコンピュータの原型となった。
この他にも量子論の発展に携わった人々のエピソードもいろいろと書かれていて、人物列伝的な読み物としても興味深く楽しめる作りになっています。
関西弁に違和感がなければ、すごく読みやすい
この本、時々なぜか関西弁がでてきます。
これを親しみやすさだと感じるかうっとうしく感じるかで読みやすさが大きく変わるかと・・・
もちろんワタシは関西人なので、「むっちゃ親しみやすいやん!」と楽しみながら読むことが出来ました。
本来なら難しくて頭が痛くなるような内容を軽妙な雰囲気の文章でうまくまとめています。
構成的にもコンピュータの基本原理、量子論、量子コンピュータの仕組み、量子アルゴリズム、暗号技術、D-WAVEシステムズ社の量子コンピュータの紹介と基本部分はしっかりおさえられています。
とにかく気楽に量子コンピュータに関して学びたい人にはおすすめの本です。
量子コンピュータが人工知能を加速する
3番目におすすめするのは『量子コンピュータが人工知能を加速する』です。
2016年に出版された本ですが、量子コンピュータの一般向け入門書では今のところ最新のものになると思います。
この本は先の2冊と少し毛色が違って、D-WAVEシステムズ社の量子コンピュータの話題を中心に書かれています。
1億倍速いコンピュータという衝撃
D-WAVEシステムズ社というのは商用量子コンピュータを発売したカナダのベンチャー企業です。
もともと、量子コンピュータは実現するのは早くて21世紀の後半になるだろうと言われていました。
ところが突然、2011年にD-WAVEシステムズ社が商用の量子コンピュータ「D-WAVE ONE」を発売しました。
当初は、D-WAVEの量子コンピュータは本当に量子コンピュータなのか、偽物じゃないのかと懐疑的な目で見られていました。
グーグルやNASAが実際に導入・テストし、2015年に「従来のコンピュータと比べて1億倍高速」と衝撃的な検証結果を発表したので話題になりました。
「組合せ最適化問題」を解くことに特化した量子コンピュータ
量子コンピュータには、従来型のコンピュータの拡張版とも言える汎用型の「量子ゲート方式」と特定の機能しか持たない「量子アニーリング方式」の2種類があります。
量子ゲート方式は開発が難しく、実用化されるのは当分先だろうと予測されています。
もう一方の量子アニーリング方式は、量子ゲートのものよりシステムが安定的で開発が容易とのことです。
D-WAVEシステムズ社の量子コンピュータは、量子アニーリング方式を採用したものになります。
ただし、量子アニーリング方式の量子コンピュータは「組合せ最適化問題」という問題にのみ特化した装置となります。
つまり、D-WAVEシステムズ社の量子コンピュータは「組合せ最適化問題を専門に解くマシン」ということなんです。
「1億倍高速」という検証結果は、従来のコンピュータと比べて常に1億倍速いというわけではありません。
組合せ最適化問題のみを1億倍速く解くことができる、ということになります。
組合せ最適化問題は、組み合わせの数が膨大に増えて行く
「組合せ最適化問題」とは何でしょうか?
「組合せ最適化問題」の代表的なものに「巡回セールスマン問題」があります。
例えば、宅配ドライバーがいくつかのポイントへ荷物を届けながらルートを巡る時、どのルートの組み合わせが最適(最短)となるかを考えるような問題になります。
実はこの問題、巡回するポイントが増えるごとに爆発的に組み合わせが増えていくんです。
回らないといけないポイントが5ヶ所ならその組み合わせは120通りとなります。
ポイントが10ヶ所なら組み合わせは約360万通りです。
15ヶ所だと約1兆3000億通り・・・と増え方がすごい!
従来型のコンピュータでこの問題を解く場合、総当たり的にひとつひとつの組み合わせを調べて「最適解=最短ルート」を計測していくことになります。
もし仮に、1秒間に1京回の計算ができるスーパーコンピュータ「京」で計算すれば、どれくらいの時間が掛かるのでしょうか?
15ヶ所の場合の最適解なら、組合せは約1兆3000億通りなので1秒ほどで答えが出ます。
30ヶ所の場合なら・・・
なんと8億年もかかります!
30ヶ所のポイントの場合、その組み合わせはおおよそ1京の1京倍となるからなんです。
量子コンピュータの可能性は無限大!
実は、量子コンピュータに期待されているのは、従来型のコンピュータでは気が遠くなるほどの時間がかかる「組合せ最適化問題」のような問題を解くことなのです。
このような問題は私達には馴染みがないように思われがちですが、実際は社会の様々な分野で活用できるそうです。
例えばバイオ分野で創薬の研究に利用されたり、交通システムの最適化に使用したりすることが可能です。
また、人工知能の機械学習に活用することで、医療分野での画像診断システムや金融分野のフィンテックの技術として使われることになります。
量子コンピュータは、従来型のコンピュータでは解くことが難しかった計算を非常に効率よく処理することができます。
それによって、私達の社会が大きく発展していくことになるのは間違いないでしょう。
共著者のひとりは量子アニーリングマシンの基礎理論の発案者
この本の著者の西森秀稔さんは「量子アニーリング」理論の発案者のひとりです。
ページ数的には3冊のうちで一番少ないのでサクッと読み終わります。
この本に数式や数学的な記述はほぼ出てきません。コンピュータの基本原理や量子論に関する話題も少し触れられているだけです。
一方で、量子コンピュータがどのように利用されるだろうかということや、どう活用されるべきかということが力を込めて書かれています。
また、量子コンピュータの開発を巡る日米の研究姿勢やベンチャー制度の違いに対する熱い想いが語られています。
最前線にいる研究者の声として、他の本にはないとても興味深い内容でした。
何冊も読むのはめんどくさい、最新の話題も含めた入門図書で手っ取り早く読み終えられるやつを1冊だけ教えてくれ!という人にはこの『量子コンピュータが人工知能を加速する』をおすすめします。
その他の入門書
他に読んでみた量子コンピュータの入門的な本は下記の2冊。
こちらはプラスアルファとして紹介しておきます。
ようこそ量子 量子コンピュータはなぜ注目されているのか
先に紹介した3冊と重複する箇所が多いので、特に無理して読む必要はないかも(内容的にも少し物足りない)。
Amazonで中古本なら1円です(送料別)。
コストをかけずに知識を得たいならこの本から読むといいでしょう。
量子元年、進化する通信
こちらは量子コンピュータではなく、量子通信技術について詳しく書かれています(もちろん入門的な部分のみです)。
量子理論が通信技術とどう絡むのかについて知りたい文系さんにはおすすめです。
量子暗号の理論が偶然の出会いで生まれたという話は面白かったですね。
(量子物理学者と暗号学者がバカンス先のプールサイドで知り合ってBB84という量子暗号方式が生まれたそうです。)
おもしろおすすめ関連本と映画
もっとワクワクしたい人へ、量子コンピュータとは直接関係ありませんが、関連する図書と映画を紹介します。
関連本:私達にとって暗号とは?暗号技術の歴史
暗号解読(新潮文庫)
『量子コンピューターが本当にすごい』で参考図書にあげられてたので、かなり前に読んだのを思い出し、本棚の奥から引っ張り出しました。
古代から現代までの暗号の歴史を述べながら、人類にとって、いかに暗号技術(秘密の通信)が重要であったかを教えくれます。
量子コンピュータと関連するものとして、チューリングや現代の暗号技術(RSA暗号)、そして未来の量子暗号について書かれた章があります。
著者のサイモン・シンはサイエンスライターとしてはビッグネームです。
サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』という著書も読んだことがありますが、この人の作品はハズレがなくどれも面白いですよ。
関連映画:天才アラン・チューリングの人生に感動!
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
現代コンピュータ理論の基礎を作ったチューリングさんについての映画が面白い!
人付き合いの下手な天才チューリングをベネディクト・カンバーバッチが好演しています。
映画の最後に後日談的な解説が流れるんですが、歴史に埋もれた真実がわかります。戦争を終わらせるために知力で必死に戦っていた人々がいたんですねぇ。
ちなみにチューリングさんは同性愛者です(当時のイギリスでは同性愛は犯罪でした)。「LGBTは生産性が無い」なんて言ってた人に観せたい映画です。
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は、Amazonプライムビデオ会員なら無料視聴できます(2019年1月19日現在)。
こんな人に量子コンピュータの本をおすすめします
今後、量子コンピュータ関係の技術は大きく進歩することでしょう。
グーグルやIBMだけではなく、インテルやマイクロソフトなど多くの企業が量子コンピュータの関連技術に出資しています。
日本でもNECやデンソー、富士通など多数の企業が独自の研究を進めているようです。
量子コンピュータの開発はまだまだ技術的なハードルが高く、かなり困難なようです。
でも、もし成功すれば莫大な利益を生み出すかもしれません。
インテルやマイクロソフトなども、量子ゲート方式を基盤とする量子コンピュータの開発に投資している。実用的な大きさのシステムに至るのは大変困難な道だが、長期にわたるプロジェクトが成功すれば、量子シミュレーションによる創薬などいくつかの分野で莫大な市場が生みだされるという判断なのだろ。
『量子コンピュータが人工知能を加速する』より
量子コンピュータの入門書をおすすめしたいのは次のような人達になります。
これから大きく伸びるであろう分野が知りたい投資家の方は読んでみてはどうでしょうか。
また、量子コンピュータに関わる職業は将来有望です。
例えば、量子コンピュータ関連のエンジニア、量子アルゴリズムや量子プログラムの開発者が多く求められる時代が必ず来るでしょう。
これから将来を決める学生さん、一読の価値はありますよ。
そして何よりおすすめしたいのは、ワタシのような普通の人。
最先端の技術に好奇心がそそられて、読み進めるとワクワクする気持ちになれます。
まとめ
量子コンピュータを利用すると、今までのコンピュータでは膨大な時間がかかっていたような計算が一瞬でできるようになるそうです。
ついこの前まで量子コンピュータなんてSFの世界だ、実現するのは21世紀の終わりごろだろうなんて言われていました。
それが今では、性能は限定的で初歩的なものですが、商用レベルの量子コンピュータが現れています。
(なんと、2019年1月にIBMが汎用型の商用量子コンピュータ「IBM Q System One」を発表しました!)
人工知能やバイオの分野、金融や気象のシミュレーション、そして量子自体のシミュレーションなど様々な分野で驚異的な成果を上げるだろうと考えられています。
量子コンピュータが実用化されることで、人類にとって素晴らしい未来が開ける可能性があります。
量子論や量子コンピュータは素人には敷居が高いと思われがちですが、物理や数学が苦手な初心者でも分かりやすい良書を紹介させてもらいました。
この記事が、量子コンピュータを学びはじめる参考になれたら嬉しいです。
長々と読んでいただきありがとうございました!
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