この記事はこんな人におすすめ
- バブルがなぜ起こるか知りたい人
- 暴落から身を守りたい人
- 『バブルの物語』を読んでみたい人
暴落はまた起こるのでしょうか?いつ、起こるのでしょうか?次にやって来る暴落は、世界経済を崩壊させるほどの規模となるのでしょうか?
そんな疑問の答えを知るために『バブルの物語~暴落の前に天才がいる』を読みました。
資本主義が本格的に発達してきた18世紀以降、「バブルと暴落」は何度も繰り返されてきました。本書はその繰り返された物語の幾つかを紹介しています。
そして、なぜ何度も「バブルと暴落」は繰り返されるのか、またそれを防ぐ手立て、予知する方法はあるのだろうかを語っています。
著者、ジョン・ケネス・ガルブレイスについて
著者のジョン・ケネス・ガルブレイスは20世紀を代表するアメリカの経済学者です。出自はカナダの農家の子息ですが、1937年に米国市民権を獲得しています。
ハーバード大学経済学部教授やアメリカ経済学会会長を務め、 その業績と人気から経済学の巨人と呼ばれていました(身長も2メートルで大きかった)。
この本は1990年にアメリカで初版が出版、1991年にダイヤモンド社より邦訳が出版されています。2008年に同じくダイヤモンド社より新版が出されています。(1991年版を読みました。)
世界的な経済学者による本ですが、専門書ではなく一般向けに出版された著作です。
著者自身が本書のことを「長いエッセイ」と言うように、「この本のおかげで(暴落で)お金を損せずにすんだ」と思ってもらえるよう気軽な読み物として執筆された著作です。
お硬い経済学的な分析などは無く、歴史上のさまざまな「バブル」を紹介していく、という内容になっています。
17世紀のオランダのチューリップバブルからはじまり、18世紀のフランスのジョン・ロー事件、同じく18世紀ロンドンのサウスシー・バブルそして米国での1929年の大恐慌といった「バブルの物語」が語られています。
重要キーワード1、「ユーフォリア(陶酔的熱狂)」
原題は”A Short History of Financial Euphoria;Financial Genius is Before the Fall”です。直訳すると「金融的ユーフォリアに関する短い物語;暴落前は金融の天才である」でしょうか。
『ユーフォリア』とは馴染みのない言葉です。翻訳者によると日本語に訳すのは難しい言葉であるとのこと。本書では「陶酔的熱病」などと訳されて、重要なキーワードとして繰り返し出てきます。
多くの人々が欲に目がくらんで通常の判断力を失い、盲信的に金融商品の値上がりを信じ、投機的行動につき進んでいく・・・そのような状態をあらわす言葉として使われています。
『ユーフォリア』とはバブルの最中(さなか)に見られる「理由のない集団的な熱狂」なのです。
重要キーワード2、「てこ(レバレッジ)」
ガルブレイスはバブルを引き起こす重要な要因として、「てこ(レバレッジ)」の存在をあげています。本書で述べられたいくつかの例を以下に紹介します。
- 借金をして投機的商品(チューリップの球根)を買う「てこ」
- 銀行が保有している金貨・銀貨以上に紙幣を発行する「てこ」
- 支払った証拠金以上の何倍もの株式を買うことのできる「てこ」
これらは現在の金融システムでは信用取引であったり、部分準備金制度であったり、証拠金取引であったりと、一般的なものになります。しかし、当時は革新的なアイデアとして人々を投機的熱狂に巻き込んでいく原動力となったのです。
バブルはなぜ起こる?
また、バブルを発生させる心理的な要因として、ガルブレイスは次の2点をあげています
- 金融に関する人々の記憶は極端に短く、以前のバブルに関することをすぐに忘れてしまう。
- 富を得た人や富を得る手法に長けた人は賢明で知性に溢れていると信じられている。
ガルブレイスによれば、人々は20年もすれば以前の暴落とその痛みの記憶を忘れ去ってしまうものだということです。そして、あらたな「てこ」の要素を含んだ革新的な金融システムのアイデアが、富を得る手法に長けた天才によって発明され、ユーフォリアが繰り返されるのです。
暴落への心構え
暴落から身を守る
著者は暴落から身を守るには高度の懐疑主義が必要だと述べています。興奮や楽観的ムードが市場に拡がった時はその渦中に入らないことが賢明であると教えてくれます。
暴落を予知する
次の暴落はいつ来るのでしょうか、そしてどのような姿で訪れるのでしょうか?
ガルブレイスからは「誰にも分からない、答えようとする人は自分の無知がわかっていないのだ。」と、読者を突き放したような言葉しかありません。
しかし、これこそが唯一の正しい答えなのではないでしょうか。
また暴落はやって来るのか
ガルブレイスは2006年に老衰のため死去、享年97歳でした。
その逝去の2年後にリーマン・ショックは発生しました。
リーマン・ショックによって引き起こされた世界的な信用収縮を立て直すために、各国の中央銀行が発行したマネーの総額はおおよそ2,000兆円と言われています。増発されたマネーはそれ自体が超巨大な「てこ(レバレッジ)」となり世界的な株高=資産バブルを生み出しています。
この超巨大な「てこ」は、「バブルの物語」のひとつとなるのでしょうか?
それを予見するのは困難なことでしょう。
ひとつだけ、確かなことがあります。
ガルブレイスは次のように述べています。
「投機のエピソードは常にささやきではなく大音響に終わる」
いつか必ず、またどこかで暴落の音が響きわたることでしょう。
目次の紹介です。
目次
1 投機のエピソード
2 投機に共通する要因
3 古典的なケース1 チューリップ狂、ジョン・ローとロワイヤル銀行
4 古典的なケース2 サウスシー・バブル
5 アメリカの伝統
6 一九二九年の大恐慌
7 再び一〇月がやって来た
8 教訓は歴史から
おまけ:出版社さん、次は新訳お願いします。
『バブルの物語』は暴落後のタイミングで2度出版されています。
1991年版『バブルの物語―暴落の前に天才がいる』(1991年5月)
→バブル崩壊(日経平均は1989年12月29日の38,915円をピークに下落、1990年10月1日には一時20,000円割れまで下落)
2008年版『新版 バブルの物語―人々はなぜ「熱狂」を繰り返すのか』(2008年12月)
→リーマンショック(2007年からのアメリカ債権市場におけるサブプライム住宅ローン危機、2008年9月リーマン・ブラザーズが経営破たん)
本書はわたしの読解力の無さのせいか、それとも翻訳者の力量不足なのか、非常に読みづらい文章が多いように感じました。直訳的な和訳が多く、特に金融に関する専門的な記述になるととたんにわかりづらさが増します。柔らかめの著書であるはずなのに、翻訳が硬いように感じます。
何度読み返しても意味がよくわからない箇所もあります。原書で書かれているであろう単語を推測して読み進めないといけないような部分があったり…(例えばp40の「負債創造」なる言葉は聞いたことがありません。「信用創造(credit creation)」のことなんでしょうか?)。
次の出版の機会があれば、ぜひとも新訳でお願いします(また暴落があれば出版されるかな…)。